2018年6月8日(金)、ついに完成公開を迎えた『名古屋城本丸御殿』。
尾張徳川家の威風と贅を体現する最奥部『上洛殿』もいよいよお披露目となり、近世城郭御殿の最高傑作たる建物の全容が明らかになります。
今回は2013年/2016年から始まっている第一期/第二期公開済みの部分も含め、その見どころを徹底紹介!これから行かれる方はぜひがっつり予習してみてください。
名古屋城本丸御殿とは_歴史と復元への経緯
まずは”「本丸御殿」って何? 誰が何のために作った建物なの?”という疑問を持っている方も多いと思うので、そこから説明していきますね。
名古屋城本丸御殿は、金のシャチホコでおなじみの「天守閣」と時を同じくして江戸幕府初代将軍・徳川家康の命を受けて作られます。
その最初の用途は、家康の寵児であり初代尾張藩主となる9男・徳川義直の住居としての建物だったのです。
御殿が完成した1615年には、義直と妻の春姫の婚儀もここで行われたとされています。
しかし義直は結局5年間ほどしかここには住まず、その後「二の丸御殿」に引っ越します。
その後本丸御殿は江戸の将軍が上洛(京都に行くこと)する際に宿泊する場所として利用され、1634年に三代将軍・徳川家光の上洛の際には豪華な「上洛殿」が増築されました。
時は経ち、1930年には近世城郭御殿の最高傑作として、城郭としての国宝第一号に指定されますが、1945年、太平洋戦争での空襲によって本丸御殿は天守閣とともに全焼してしまいます。
1959年に天守閣は鉄筋コンクリート造にて再建されましたが、本丸御殿はしばらくは再建されることはありませんでした。
しかし2009年、江戸時代の記録や昭和に作成された実測図、古い写真といった史料をもとにようやく正確な復元工事に着手します。
そして2013年に第一期公開として「玄関」「表書院」などが、2016年に第二期公開として「対面所」などが段階的に公開。そして第三期・完成公開として2018年に最奥部の絢爛豪華な「上洛殿」などが公開されるに至ったのです。
緻密な史料がこれほど多く丁重に保管されてきたケースは極めてまれであり、それをもとに各分野の一級の専門家たちが集まったことで建物の構造や意匠、絵画や飾り金具に至るまで見事なまでに忠実に蘇っています。
ただのレプリカと侮ることは出来ない、伝統や文化を次の時代へと繋げる名古屋城でしか出来ない実証的プロジェクトとしての価値がここにはあるのです。
内部の構造とその役割
本丸御殿の建物の中には、明確な目的で作られたさまざまな部屋があります。
ここでは代表的な10箇所の部屋について名称と役割と紹介します。
玄関・大廊下
将軍などの来客がまず通される場所。ここから御殿の奥へと続く大廊下があります。
ふすまや壁には勇猛な虎が描かれた「竹林豹虎図」を見ることができます。
表書院
「表書院(おもてしょいん)」は、藩主が来客との公的な謁見の際に使用していた場所。
花鳥の描かれた障壁画が囲む空間の奥には床が一段高くなっている「上段之間」があり、ここが藩主の座だったとされています。
対面所
「対面所(たいめんじょ)」は藩主の身内や家臣などよりプライベートな来客との対面や宴席などに使用されていた場所。
表書院に比べて組天井や華やかなイメージの欄間などより豪華な内装になっています。
下御膳所
「下御膳所(しもごぜんしょ)」は料理の配膳や温め直しに使われていたと考えられている場所。
部屋の中央には囲炉裏、天井には煙出しがあります。
上御膳所
「上御膳所(かみごぜんしょ)」は下御膳所と同じく料理の配膳や温め直しのための場所ですが、上段之間、上之間、御膳場と呼ばれる3つの部屋がありより格式高いイメージです。
梅之間
「梅之間(うめのま)」は将軍をもてなす上級家臣たちの控え場所であったとされている広間です。
鷺之廊下
「鷺之廊下(さぎのろうか)」は対面所と上洛殿を結ぶ廊下で、名の通り鷺が描かれた障壁画が特徴的。
上洛殿
「上洛殿(じょうらくでん)」は本丸御殿の中でもっとも格式高い場所で、1634年の三代将軍家光の上洛の際、宿泊場所として増築されました。
家光の座であった「上段之間」のほか、「一之間」「二之間」「三之間」「松之間」「納戸之間」に分かれており、襖絵や天井絵、欄間にあしらわれた豪華な彫刻、飾り金具など贅の限りを尽くした黄金の空間です。
黒木書院
「黒木書院(くろきしょいん)」は清洲城にあった家康の宿舎を移築したといういわれのある建物。
他の部屋に比べ色を落とした落ち着いた雰囲気で、総ヒノキ造の他の部屋と違いこの部屋のみ良質な松が部材に使われています。
湯殿書院
「湯殿書院(ゆどのしょいん)」は将軍専用の風呂場。浴室以外に休息用の「上り場」が3部屋あります。
湯船があるわけではなく、サウナ式の蒸し風呂のような構造になっています。
<本丸御殿のココを見ろ!その1>天井を見よ!
ここからは本丸御殿の内部をより深く、通な見方をするためのポイントをご紹介していきます。
まず第一のポイントは「天井」。
それぞれの部屋では前や足下だけでなく、とにかく見上げまくってその天井をよく観察してください!
玄関から表書院などは一般的な和風建築でも見られる「竿縁天井」「格天井」という様式が使われていますが、奥へ奥へ進むにしたがって非常に豪華な飾りのついた様式の天井に変化していきます。
天井の中央に向かって段差のついている「折上げ格天井」などもあり、天井の様式で部屋ごとに明確な格式を持たせていたことがわかります。
<本丸御殿のココを見ろ!その2>絵画を見よ!
つづいてのポイントは「絵画」。
壁やふすまなどに描かれた障壁画は狩野派の絵師の作品であり、これらは戦時中空襲に備えて”疎開”させていた1049面もの実物の絵画をもとに復元模写したものです。当時の技法や素材を分析し描かれた当初の色彩を再現。鮮やかな色彩にて蘇っています。
また題材が入口から奥にかけて「走獣」→「花鳥」→「人物」→「山水」へと変わっていく点や、色鮮やかな作品が奥に行くにつれて徐々に落ち着いた水墨画になっていく点にも注目。当時の格式や価値観が見て取れるでしょう。
<本丸御殿のココを見ろ!その3>細かな装飾も要チェック!
3つめのポイントは細かな「装飾」です。
天井と鴨居の間にある「欄間」部分にあしらわれる装飾はやはり奥に行くに従って絢爛豪華なものになり、特に上洛殿で見られる立体的に施された鳥の飾りは息を飲むほどの緻密さ。
またところどころに見られる「釘隠し」、ふすまの引手の装飾も凝りに凝ったものとなっているのです。
栄華を極めた江戸期の「ジャパニーズ・バロック」ともいうべき芸術品の数々。見逃すわけにはいきません。
本丸御殿観覧の際の注意点
格式ある御殿であり、美術的価値の高い絵画や装飾に囲まれた建物だけあって、観覧の際にはさまざまな注意事項があります。
館内では必ず以下のことを守ってくださいね!
カメラでの撮影は可能、ただしフラッシュ撮影禁止
障壁画の保護のため、フラッシュ撮影は禁止されています。
携帯電話は使用禁止
美術館のような場所なので、当然といえば当然ですね。
飲食禁止・禁煙
当然ですね。
ふすま、障子、金具はさわらないで
その他建物を傷つけたり、汚損するおそれのある行為は禁止です。
土足禁止
入口で靴を脱ぎます。靴下の方はそのままでOKですが、素足やストッキングの方は備え付けのスリッパを履いてください。
リュック、肩掛けバッグNG
建物を傷つけるおそれがあるため、手持ちのバッグを体の前で抱えて観覧する必要があります。リュックや肩掛けバッグ、大きな荷物などは入口の無料ロッカーに預けましょう。
冷暖房はありません
江戸時代の空間を復元する目的で、冷暖房は設置されていません。体調に留意して入場するようにしてください。
MAP
場所 | 名古屋市中区本丸1-1 名古屋城本丸御殿 |
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観覧時間 | 9:00〜16:00 |
料金 | 名古屋城観覧料が必要 大人:500円 市内高齢者:100円 中学生以下無料 |
公式サイト | 名古屋城本丸御殿 |