キリンラガーが名古屋の地に根付いている理由。
それを説明する上で、名古屋の味「味噌」との相性というのは、切っても切れない関係にある。
昔から特に東海地方の呑み屋で愛されている味噌を使った料理といえば、【どて】だ。
今回は、まさしくラガーのあてによく似合う、どての香りがムンと漂う店、
名駅三丁目の居酒屋『あさひ』に赴いた。
都会では、あらゆる事がめまぐるしく移り変わり、あらゆる事を巻き込んで回り回っていく。
名古屋駅前のロータリーは、そんな世間の流れのループを象徴しているかのようだ。
そんなせわしさ漂う名駅の超高層ビルのすぐ裏手に、未だに昭和の佇まいのまま営業し続ける『居酒屋 あさひ』が存在する。
ある種のタイムパラドックスといえよう、その暖簾はまさしく異次元への入口のようだ。
しかし、「串専門」の文字に心が躍り、暖簾をくぐることにする。
店内はカウンターと小さなテーブル席が少々。いつの時代のものか首を傾げたくなるポスターも散見される。
しかしこの日も、そんな昔ながらの情緒を愛するサラリーマンたちで賑わっていた。
外まで匂っていた香りの原因はこれだ。
大鍋でぐつぐつと煮込まれた、大量の【どて串】。
辛抱たまらず、着席した途端、ビールと共にオーダーした。
こういった店では、「ビール」とだけ言えば、キリンラガーが出てくる店が多いようだ。
早速一杯引っかけつつ、どて串を口にする。
八丁味噌独特のコク、香り、甘辛さ。まさしくラガーのコクと苦味に上手く調和する。
これぞ名古屋の味と唸らざると得ない。
ややこぼれ話になるが、テーブルの上の2つ並んだ金属皿に、ドカ盛りのキャベツとソースが用意されている。
こういった昭和の居酒屋ではよく見る光景だ。
これらの意味がわからない人もいるかもしれないが、
キャベツはつまみ用、ソースは串かつに直接ここで浸けさせるためのものだ。
この皿に入ったソースは暗黙の了解として【二度漬け】禁止ルールがある。
「二度漬け」とは、一度口に含んだカツをもう一度ソースに浸けることだ。
衛生上のマナーであるが、どうしてももう一度ソースを浸けたい場合、キャベツでソースをすくってかける上級者もいるらしい…
こういった不文律は、どの地域まで、もしくはどの世代まで通用しているのだろうか?
ふと疑問に思った。
そんなこんなで串かつをちびちびソースに浸けていると、女将が【味噌串かつ】を勧めてくれた。
衣がしんなりとなり、ほろほろとこぼれ落ちそうになっている串かつは、見る人が見れば下品というようなものかもしれない。
だが仕方がない。これも一種の名古屋流なのだから。
隣のサラリーマンが食べているのを見て、ついついオーダーしてしまったのが、このお店の名物らしい【いか団子】。
こちらはイカの旨味と塩味が効いた酒のつまみらしいつまみだ。
ちなみにどの串も注文すると一皿に三本縛りで提供される。
食べ終わった串は、席の前に置かれたブルーの容器に入れていく。
ぶっとい竹筒のようなものはビールを指しているらしい。
串はどれも1本100円。昔ながらの明朗会計スタイル。
酒を呑みながら、何を考えるか。
答えは人それぞれだろうが、私の答えは『何も考えない』だ。
何も考えず、古き良き情緒に身を委ねながら、大びんを傾け続ける。それが癒しの時間になるのだ。
“なぜ、名古屋=キリンラガーなのか?”
そんな疑問の答えも、本当は考えることではないのだ。
“昔ッから、決まッとる。“
古めかしいメニュー表に書かれたキャッチコピーが、すでにそれを教えてくれていた。
◆取材協力/キリンビール株式会社
MAP
場所 | 名古屋市中村区名駅3-26-3 |
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営業時間 | 17:00〜23:00(L.O.22:30) |
定休日 | 日曜日・祝日 |