『キリンラガーは名古屋の味』
このことは、何も名古屋人だけが感じていることではないのかもしれない。
一日約40万人が往来する名古屋駅の高架下で、50年以上美味しい料理と酒でもてなし、旅行く者を満足させ続けている名店『かぶと』。
名古屋に来る出張族のオアシスと言われているこの店で、忘れられない味に出会った。
1964年、東海道新幹線が東京〜新大阪間に開通したと同時に開店した老舗居酒屋「かぶと」。
新幹線名古屋駅改札に近い太閤通口南高架下で、名古屋のおもてなし役を自ら買って出て、それからおよそ50年。
小さな店内は珍しいV字型のカウンターのみ。
一人か二人での来店客が多いが、大将含めた皆の距離感が近く、家庭的な雰囲気に溢れている。
夕方16時開店だが、日によっては暗くなる頃合いには満席になってしまうこともしばしばだという。
近隣の常連客のほかに、ビジネスキャリーを持ち込んだサラリーマンの姿もちらほら。
カウンターに並ぶのは、まばゆいばかりの手作り惣菜、串焼き、野菜、鮮魚、そしておでん。
旬の食材ばかりなのはもちろん、見た目に躍動感や郷土感があふれ、食欲をそそられずにはいられまい。
早速、ビールと共にオーダーする。
冬に嬉しいおでんの中で、定番の大根、卵と共に注文したのは『ちくわぶ』。
関東ローカルのおでん種。名古屋で食べられる店は非常に限られている。
東京からの旅行客も多いこの店ならではのメニューといえるだろう。
独特の舌にまとわりつくような食感。濃い目の出汁を吸って良い具合に仕上がっている。
辛子との相性も申し分ない。ビールが進む。。。
大将が手際よく盛り付けてくれた『刺身の盛り合わせ』をいただく。
マグロ、寒ブリ、鯛。その鮮やかさに見惚れてしまいそうになりながらも、一枚一枚丹念に口に含む。
まろやかな食感とともに、それに同調するがごとくゆっくりと流れていく幸せな時間を噛み締める。
そして人気メニューだというのがこの『あなごの天ぷら』だ。
想像していたよりも遥かに多いボリュームにまず驚く。
ホクホクとした外側の身と、引き締まった内側の身の華麗なるコントラスト。
天ぷらというシンプルな手法ながら、穴子という食材の持ち味を最大限に引き出す食べ方であることに気づく。
この店の最大の魅力は『家庭の味』だろう。
名古屋名物を無理に推し出すわけではなく、出張族たちを迎え入れる「名古屋の我が家」としての雰囲気、そして料理の味を重視しているのだ。
そんな中でもラガーは主張する。<我こそは、名古屋の味>と。
パンチの効いた濃厚な苦味。それは喉元から海馬へと渡り、記憶の中枢に植え付けられる。
ラガーを酌み交わしていた時間、ラガーが傍らにあった空間、それこそが名古屋の記憶そのものとして忘れられないものになるのだ。
ビジネスキャリーを手にしたサラリーマンが店を出て、女性店員が『いってらっしゃい』と声を掛けた。
そう、彼も間違いなく、忘れられない名古屋の記憶として、この場所に再び帰ってくる日が来るだろう。
…などと勝手な妄想にふけりながら、さらに一杯。。。
◆取材協力/キリンビール株式会社
MAP
場所 | 名古屋市中村区名駅1-3-7 |
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営業時間 | 16:00〜24:00 |
定休日 | 日曜・祝日 |