大型スーパーというと、今は赤紫色のイメージが強いかもしれないが、ほんの15年ほど前まではオレンジ色のイメージだった。
そんなオレンジ色のスーパーが2つあった街・今池。
かつては名古屋の東の繁華街として栄華を極めた時代があった。
そんな時代の余韻を今に伝える店が、環状線西の裏路地にある居酒屋『きも善』だ。
今宵はキリンラガーをグラスに傾けながら、在りし日の今池の華やぎを偲びたい。
今池は昔も今も夜の街という側面が色濃い。
若干アナーキーな香りも漂うこの界隈で、「きも善」は50年以上変わらず営業を続けている。
店内は、キッチンに面したカウンターのほか座敷席も用意され、大衆居酒屋のような雰囲気だ。
多くの人々がそれぞれの談笑を楽しみ、それに呼応するように活気のある声を張り上げる従業員は皆、【今池ハードコア】と書かれたTシャツを着ている。
そう、今池はライブハウスも多く、アンダーグラウンドなカルチャーが生まれやすいロックの街だ。
店内の隅に突然、ハーレー・ダビッドソンがディスプレイされていても、違和感なく溶け込んでいるではないか。
早速、キリンラガーとともに料理をオーダーする。
この店の売りはなんといっても、店名にも含まれている「きも」焼き、そしてもつ焼きだ。
きも焼きは甘辛な味付けで、にゅるっと舌に絡みつくような食感がたまらない。
もつ焼きは焦げ目がカリッとして、目に染みるような塩味が特徴的。いずれもラガーのあてにうってつけの渋い味わいだ。
渋い味わいを期待して『牡蠣の塩焼き』もオーダーしてみたが、期待通りだった。
焼き加減も味付けも丁度良く、そしてなんといっても焦げ目のつき具合がたまらない。ビールが進む。
そしてこの店の一番の看板メニューというべき存在がこちらの『遮断機』。
【きも善バイアグラ】というサブタイトルまでついた自慢の一品。
大量の肝、もつ、心臓、砂肝、ねぎに加えてさらには卵黄とにんにくまでトッピングしたスタミナメニューだ。
4種のモツの食感の違いを楽しめるとともに、にんにくの味わいとネギの清涼感が身を引き締めてくれる。
通常の生活ペースの中で一年間ほどかけて摂取するほどの量の内臓肉を食べたのではないか?と思うほどの満足感。
まさしく列車が駆け抜けるための役割を果たす「遮断機」なのだ。
ふと、メニューの手前に置かれた小さな冊子に目が止まった。
ユニークなイラストが書かれた『今池遊覧絵図』。
表紙に描かれたプロレスラーは不定期に行われているイベント『今池プロレス』のスターレスラー・マグナム今池。
実はその正体はきも善の二代目大将だ。
手書きで書かれた今池のガイドマップ。
かつてはさまざまな街でこういった案内冊子があった筈だが、近頃はあまり見かけなくなったような気がする。
今池の街は死んでなどいない。
きも善は今池の街興しを独特のアプローチで進める中心的な存在、まさしく今池の守護神なのだ。
ユニーやダイエー、今池国際シネマ、今池カラーズ…さまざまな散り行った者たちの英霊が、この場所に宿っている。
その魂は今池の街だけではなく、名古屋の街全体にずっと変わらないものを守り続けたいと願っているのではないだろうか。
◆取材協力/キリンビール株式会社
MAP
場所 | 名古屋市千種区今池1-14-1 |
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営業時間 | 17:00〜24:00(L.O.23:20) ※祝日のみ22時まで(L.O.21:20) |
定休日 | 日曜日 |
公式サイト | きも善 |