大正時代の生活様式と美的感覚に思いを馳せる『旧豊田佐助邸』【文化のみちを歩く③】

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名古屋市東区の白壁一帯「文化のみち」には、かつてトヨタグループの礎を築き上げた豊田家の一族の館が集まっていました。
それらはさまざまな理由で姿を消しましたが、唯一現在も当時に近い姿で残されている館が『旧豊田佐助邸』です。

“発明王”豊田佐吉の弟で実業家であった佐助が暮らしていた、質実剛健でありながら独特の美学と先見の明にあふれた貴重な館の見どころを詳しくご紹介していきます。

目次

旧豊田佐助邸の歴史と概要

「旧豊田佐助邸」は、発明王と呼ばれ現在に至るトヨタグループの礎を築き上げた創始者・豊田佐吉の実弟である豊田佐助が住んでいた邸宅。建築年代は大正12年ごろとされています。

この白壁地区にはその昔、兄の佐吉やその実子でトヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎など一族の邸宅が集まっていたとされていますが、現存している館はこの佐助邸のみ。太平洋戦争後に米軍に接収され将校の住宅となっていた時期もありますが、その後アイシン精機の所有となり、現在は名古屋市が借用し一般公開しています。

建物の特徴としては、洋館と和館が併設する大正時代に流行した建築様式が見られるとともに、生活様式が非常にリアルに伝わる点が挙げられます。
また、和洋折衷のスタイルが『文化のみちを二葉館』『文化のみち橦木館』とはまた違った形である点も見どころといえます。

見どころその1:迎賓の間に見られるユニークな換気口

玄関から建物に入ってまず最初に登場するのが洋館の応接間。
実業家として活躍していた人物の館だけあり、来賓を迎えるための贅を尽くした装飾が施された部屋になっています。

天井からぶらさがったシャンデリアは蓮の蕾の形をしたエレガントなデザイン。吊元部の装飾も非常にデコラティブなものになっています。

この洋間で一番の見どころが、天井のふちにある換気口のデザイン
おめでたいことの象徴である鶴と亀がモチーフですが、よく見ると「と」「よ」「だ」の三文字が含まれたマークになっています。どの部分がそれぞれの文字にあたるかわかりますか?

見どころその2:先進的な設備

1Fの和室はふすまや電灯などが当時のまま残されています。
写真やゆかりの品なども展示されているほか、豊田家の家系図などもあり大変見応えがあります。

1Fの廊下にはガス灯が設置されています。
家の中のガス灯というと現代では珍しいもののように思えますが、デザインも非常にお洒落で大正ロマンを彷彿とさせますね。

昔ながらの配電盤もあります。
それ以外にも水洗トイレや電話ボックスも設けられているほか、関東大震災以前の時代でありながら耐震構造を取り入れているなど、佐助がいかに先進的な考えの持ち主であったかがわかります。

見どころその3:特殊な和洋折衷構造

2階に上がると非常に広い面積の和室が広がります。
当時のままの豪華な黄金のふすまは経年劣化していますが非常に年季が入っていて見応えがあります。

ここで注目したいのはこの大広間でも風通しをよくするためのさまざまな工夫がなされている点。
欄間の上下に隙があったり左右に開ける雪見障子なども見られ、派手さはありませんが当時の建築技術の高さを目の当たりにすることでしょう。

こちらは風流さを感じさせる簾障子ですが、ちょっとした文様の意匠が施されています。
質実剛健さの中にほんの些細な遊び心を取り入れるセンスを感じ取れますね。

そして、和室の周りを洋風建築の廊下が取り囲んでいるという非常に特殊な構造であることがわかります。
敷居一つ挟んで和洋の全く異なる様式が隣り合わせになっていますが、違和感なくまとまっているという凄みを感じさせます。

欧米の住宅の合理性と日本邸宅の伝統を調和させた大変貴重な館。当時の人々の美的感覚の素晴らしさに胸を打たれずにはいられません。

アクセスと開館時間などその他の情報

旧豊田佐助邸への公共交通機関でのアクセスは、地下鉄では、桜通線の「高岳」駅から徒歩約15分。
バスの場合は名古屋駅のバスターミナルから、なごや観光ルートバス「メーグル」で「文化のみち二葉館」停留所から西へ徒歩4分、
基幹2系統「清水口」停留所から徒歩約4分、幹名駅1系統「東片端」停留所から徒歩約5分で到着します。

場所 名古屋市東区主税町3-8
開館時間 10:00〜15:30
休館日 月曜日(祝日の場合は直後の平日)
12月29日〜1月3日
入場料 無料
公式サイト 旧豊田佐助邸